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2007年度日本地震工学会・論文奨励賞の受賞者発表

 日本地震工学会は優れた研究により地震工学の分野で顕著な業績をあげた若手研究者を奨励するために「日本地震工学会・論文奨励賞」を2005年度より設置しました。受賞対象者(毎年2名以内)は、表彰年の前 年度の12月31日から2年前までの期間に日本地震工 学会論文集に掲載された論文の筆頭著者を原則として、受賞年度の4月1日において満35歳以下の正会員あるいは学生会員です。

 2007年度論文奨励賞の受賞者は、該当する全ての受賞候補者の中から論文集編集員会による選考、および理事会による審議を経て、下記の2名と決定いたしました。心よりお祝いさせて頂きます。授賞式は本年5月22日に日本地震工学会の総会が建築会館で行われます。

1.受賞者:三浦弘之 君(東京工業大学)

  • 受賞論文:高分解能衛星画像と数値標高モデルを用いた2004年新潟県中越地震での斜面崩壊地の検出(第7巻 第5号、2007年11月掲載)
  • 著者:三浦弘之、翠川三郎

受賞理由:
 本論文は、2004年新潟県中越地震で斜面崩壊が数多く発生した震源近傍の衛星画像データを用いて、地震前後で撮影された衛星画像の差異から斜面崩壊地を検出する手法を用い、その適用性を詳細に検討したものである。衛星画像を用いた検出手法そのものは既に提案されている手法であるが、本論文では崩壊した場所では地震前にあった樹木等が流出して土砂が露出していることに着目し、植生の活性度を表す衛星画像データから得られる正規化植生指標(NDVI)を用いて検出しており、研究の着眼点の良さと独創性が認められる。また本論文の手法には、航空機レーザスキャナーによる数値標高モデル(DEM)を利用して衛星画像間の重ね合わせ誤差を小さくすることや、DEMから算出した傾斜角を用いて平地を除去することにより誤検出を軽減することなどの新しい試みが見られ、新規性も評価できる。同時に本論文の手法が航空写真の目視で判読された斜面崩壊地の85%を検出していることから、本論文の手法の有用性も高く評価される。さらにNDVI特性の分析、それに基づく検出方法を提案、検出結果の評価までの一連の研究を丹念に行っている。よって、本論文が有する独創性、新規性、有用性から、研究者としての将来が嘱望され,論文奨励賞に相応しいと考えられます。

2.受賞者:(包)那仁満都拉 君(飛島建設株式会社)

  • 受賞論文:強震ネットワークデータから構築した広周波数帯域統計的グリーン関数とその南海地震への応用(第7巻・第2号・特集号1、2007年3月掲載)
  • 包 那仁満都拉、川瀬 博

受賞理由:
 本論文は、K-net、KiK-net、およびJMA震度計観測網で得られた膨大な強震観測データを基に経験的グリーン関数法を提案している。また手法を想定南海地震に適用して強震動予測を行い、同地震による西日本の建物被害予測まで行っている。本論文の経験的グリーン関数法では、地震動の経時特性とスペクトル特性をマグニチュードや震源距離などをパラメータとした簡易な式で表し、大量の強震記録を統計解析して得られたモデルを使用している。そのため使用するパラメータの数が必要最小限に抑えられて波形が簡便に求められるため、従来に比べ手法の有用性が高いことが評価される。一方、想定南海地震による西日本の建物被害予測では、木造、中低層RC造・S造、超高層RC造の各構造について標準的建物モデルを作成し、そのモデルを用いた非線形応答解析を多数の地点で行い、各構造の被害予測マップを作り上げている。この膨大な解析と大量のデータ処理は特筆に価する。本研究は手法や結果について精度の検証が課題として残されているが、南海地震の防災対策を行う上で極めて有用な情報であり、将来性ある研究として高く評価できる。よって本論文が有する有用性、および発展性から、研究者としての将来が嘱望され,論文奨励賞に相応しいと考えられます。

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