(PDFファイルはこちら) Nov. 5, 2002
Molise, ITALYの地震に関する速報
鍬田泰子
ミラノ工科大学留学中
日本学術振興会・特別研究員
神戸大学自然科学研究科・博士後期課程
(高田至郎研究室)
1. 地震の概要
本地震は,現地時間の2002年10月31日(木)午前11時33分にNaple(ナポリ)から80km北西のCampobasso(カンポバッソ)地域で発生した.震源地は,経度41.63N°,緯度14.77E°,震源深さ15km,Molise(モリーゼ)州のCampobassoの北東60kmでLarino(ラリーノ),Bonefro(ボネフロ),Cosaca(コサーカ)の町の間に位置し,地震のマグニチュードはMW5.7,ML5.4,メルカリ震度階で最大8であった.また,Molise州では11月1日午後16時08分にML 5.3,メルカリ震度階7-8,午後16時20分にML 4.1,メルカリ震度階6,午後16時42分にML 3.4,メルカリ震度階5の余震が観測されている.Fig.1は国立地質火山研究所(Istituto Nazionale di Geofisica e Vulcanologia,INGV)によって推定されたメルカリ震度である.イタリアでは,1997年にUmbria(ウンブリア)地区(イタリア中部)で11人の死者を出して以来の大きい被害をもたらした地震であった.
Fig. 1 メルカリ震度分布
10月26日にSicily(シシリア)島西部の火山,Mount Etna(エトナ山)で噴火が始まり,10月31日にMount Etnaでマグニチュード3.7の地震が発生している.また,同マグニチュードでSicily東部,Palermo沖で11月1日午前にも他の地震が発生している.ローマ国立地質火山研究所(INGV, Rome)では,これら地震はMoliseから450km離れた所で発生した火山性によるであり,内陸部で発生した本地震とは関係がないと報告している.
2. 被害の概要
被害は震源地域のMolise州の多くの町・村に集中した.Molise州は136の自治体で構成されCampobassoはMolise州の州都である.州の人口が33万人,その内,Campobassoが24万人である.最も被害を受けたこの地域(Fig. 2.参照)では,一般住家の約70%が屋根の崩落か壁に亀裂の被害を受けており,とくにそれらの建物は30年前に建てられたものがほとんどであると報告されているが,11月2日現在,新聞報道上には住家被害のレベル,件数等の詳細な数値は上がっていない.また,本地震による犠牲者は死者29名,負傷者61名と確認されている.11月1日の余震では,少なくとも3名の負傷者が発生した.
人口1,210人の小さな村San Giuliano di Puglia (サンジュリアーノ・ディ・プーリア)(Campobassoの北東25km)は,本地震で最も甚大な被害が出た村の一つである.死者の内,27名はこの村のFrancesco Jovine(フランセスコジョヴィネ)小学校校舎倒壊の下敷きよるものである.他の2名は老人女性であり,自宅崩壊による下敷きで亡くなっている.近郊のCastellio del Biferno(カステロデルビフェルノ)では,教会の鐘楼や屋根の一部が被害を受けた他,2名が負傷したと報道されている.
Fig. 2 被災地の被害状況
イタリアのCivil Protection Serviceは,さらなる建物倒壊の恐れがあるため,住民の避難決定を行った.約3,000人の住民がCampobasso近くに,急遽用意されたキャンプに避難している.地震発生45分後に対策本部が設置され,消防隊員328名が109台の救助車両とともにCampobassoに派遣された.また,約500名のボランティアも救助活動に参加している.
3. San Giuliano di Pugliaにおける小学校倒壊
児童数150名のFrancesco Jovine小学校で56名の児童と4名の教員,2名の管理用務員の合計62名が地震直後閉じ込められた.児童らの何名かは,イタリアで一般的な祝日となってきている11月31日のハロウィンを祝うため庭先に集まっていた.
高学年児童の多くは屋根が崩壊してきたため,避難する余裕もなく座席で被災している.倒壊した建物はRCの2階建で,1953年に建設されており,昨年平屋から2階部を一部増築されたものである.周辺の他の建物は崩壊せず残っており,その校舎だけが崩壊した.屋根のコンクリートの重さに耐えらなかったことが原因であると救助隊員は言っている.Larinaの検察官は,昨年の再建方法に問題あったとの見方をしており,関連書類を収集し始めている.最新情報によると, 2教室ある2階部に増築されたRCの重みによって構造物に過度の荷重が加わっていたことが原因であると報告されている.倒壊状況のテレビ映像からは,2階の天井部が完全に崩壊しており,壁材として充填されたレンガが周囲に散乱している.
Fig. 3. 小学校被害現場状況
11月1日午前3時の時点で,閉じ込められた62名の内,52名(19名の死亡と33名(内8名の重体)の負傷者)が確認され,10名の児童がまだガレキの下敷きになっていた.11月1日午前3時54分(地震発生から約16時間後)最後の生存者が小学校倒壊現場から救出された.その後も数遺体搬出され,11月1日に全救助活動は終了している.最終的には26名の児童に加え,教員1名が校舎の倒壊で亡くなっている.救助隊はクレーン,ハンマー,トーチランプと素手でボランティアとともに救助活動を行った.30時間にも及ぶ救助活動の末,合計35名が学校から生存救助されている.重傷した児童らはRome(ローマ)やBari(バリ)の病院に搬送されている.亡くなった児童は6歳から10歳児(6歳9名,7歳4名,8歳4名,9歳5名,10歳4名)であった.
4. イタリアの過去の地震と地震対策
Fig.4はイタリア国内の過去100年以内に発生した主な地震の発生場所,Table1はそれらの地震資料を示している.1980年にNaple地区で発生した地震ではCampania(カンパニア)とBasilicata(バシリカタ)地域において2,914の死者が発生し,30,000人が避難しているが,ここ20年の間は数千人を越える犠牲者は発生していない.
イタリア国内の地震対策は,1980年の地震を経験した以降,急速に進められていった.その結果,1980年代には国内を地震発生リスクに応じて三つレベルに分類し,新設の建築物に対しては安全に関する規制を適用することとするなどの防災対策法が承認された.Fig.5は1980年代の研究で開発された地震発生リスクである.
Fig. 4. 過去の地震発生場所(INGVによる現在の地震発生リスク地図に付加)
Table 1 過去の主な地震 (---:不明)
地震名 日時 マグニチュードML メルカリ震度 死者 備考(発生場所Fig. 4内)
Calabria (Nicastro, now Lamezia Terme) 08/09/1905 6.8 --- 557 3
Calabria (Ferruzzano) 23/10/1907 5.9 --- 167 7
Calabria (Reggio) and Sicilia (Messina) 28/12/1908 7.0 11 85,926 4
Abruzzo (Avezzano) 13/01/1915 6.8 --- 32,610 10
Toscana (Carfagnana) 07/09/1920 6.2 --- 171 1
Campania (Irpinia) 23/07/1930 6.5 --- 1,778 8
Lazio (Tuscania) 06/02/1971 4.5 --- 31 2
Sicilia (Belice) 12/01/1968 6.0 9 231 5
Friuli 06/11/1976 6.1 10 965 13
Campania and Basilicata (Irpinia) 23/11/1980 6.8 10 2,914 8
Molise, Lazio and Campania 07/05/1984 5.2 --- 7 9
Sicilia (Carlentini) 13/12/1990 4.7 --- 17 6
Umbria, Marche 26/09/1997 5.6 --- 11 12
Molise 29/10/2002 5.6 8 29 11
しかし,これらの地震発生リスク地図は古い推定技術であったため,1998年に新しくリスク地図を作成する研究が地震動の研究者(joint ING-GNDT-SSN Working Group)の間で行われた. 新しいリスク地図(Fig.6)の中では,今回の地震で被害に遭ったMolise地域は分類2の地震発生リスクがあることが知られており(Annali di Geofisica, vol.42, No. 6, December 1999),1999年には各自治体にその報告されている(Fig.5,Fig.6).また,2002年2月には,Molise州にこの地震パラメ−タについて地震対策を行うように指示されていた.しかし,Moliseの州長を始め,多くの行政はこの地震発生リスク地図の存在すら知らなかった.リスクに応じた地震対策を実施するか否かは,各自治体の政策的な方針に任されている.Molise州場合,1805年6月26日にMolise州に発生した地震では5,573名が亡くなっている他,最近20年間においてメルカリ震度階で震度5(窓ガラスがガタガタ揺れる程度)以上を越える地震が25件以上発生している.しかし,全自治体の中で,地震対策を実施している自治体は76.5%に留まっており,イタリアの国内平均と比べても低い.
Fig. 5 現在の地震発生リスク図  Fig. 6 新たに提案されている地震発生リスク図
5. 地震後の緊急対応
11月3日Molise州では本地震における死者の合同慰霊式が行われた.また,倒壊した小学校の現場は,ガレキの撤去後"Great green space"として残し,イタリアの有名な芸術家のモニュメントを立てることが決められた.
11月4日,被災地の二年以内の復興を目指し,Molise州の被災地には災害義援金として50milionユーロが,また,先月26日のSicily島のMount Etnaの 噴火と地震による被災地にも10milionユーロの義援金が出されることが内閣で決まった.また,2003年予算の中に災害援助金を組み込むことをイタリア政府が考えていることを内政省が示している.
11月4日現在,被災地では5,500人が避難生活を送っている.Molise州の22の自治体が避難を行っている.153台の消防車両,200台の瓦礫撤去車両,600人の消防隊員,300人の軍隊,1,438人のボランティアが被災地に入っている.100個の簡易トイレと500個のテントが用意され,住民はテントやスポーツセンターに入っている
6. 被災地の様子(救助活動と避難生活,地元新聞より)
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注:本報告は,INGVのホームページ(http://www.mi.ingv.it),地元紙の報道をもとにまとめたものである.また,INGVのValentina Montaldo氏には多くの助言を頂いた.ここに記して感謝を示す.