「2004年12年26日スマトラ島沖地震報告会」の開催報告
 
 渡辺孝英(日本地震工学会理事、大崎総合研究所)
福喜多輝(清水建設技術研究所)
 

 4月4日に本学会主催、関連学協会共催・協賛で表記報告会が開催されました。参加者は約150名で、15人の講演が行われ、活発な質問等があり盛況でした。報告会の模様は5日の読売、日経、建設工業新聞等に記事が掲載されました。なお、当日頒布した梗概集は残部がありますので、ご希望の方は学会事務局までお申し出ください。

 報告会は大町達夫 日本地震工学会副会長(東京工業大学)の開会挨拶に続き、以下の講演が行われました。

□2004年スマトラ沖巨大地震の震源領域で何が発生したのか?

八木勇治(筑波大学大学院)

 2004年スマトラ沖巨大地震では、余震分布が1000km以上にわたっていることもあり、地震波を励起している領域を点で近似する従来の仮定(点震源モデル)による規模の推定は事実上不可能であることを指摘した上で、IRISによって収録されている12点の広帯域地震計観測点の記録を用いて、断層モデルを仮定して震源過程インバージョン解析を行った。梗概集掲載の計算では200秒以降の震源過程を求めることはできなかったが、新たな計算を行ったところ、最大すべり量は40m、モーメントマグニチュードは9.4と求まった。

□スマトラ超巨大地震と地震空白域

石川有三(気象庁)

 スマトラ超巨大地震の震源域の地震活動を調べた結果、今回の本震と余震の位置は本震発生の直前に地震活動が静穏化しており、地震発生の前兆とされる第二種地震空白域となっていたことがわかった。また、インド・オーストラリアプレート境界北部域の地震活動の調査から、1861年に起きたM8.4の推定震源域で2005年3月28日にM8.7の地震が起きたこと、1833年のM8.7の推定震源域では長期に地震が起きていないことから遠くない将来地震発生が懸念されることなどが報告された。

◆質 疑
以上2題に対して質疑が行われた。
・「地震の静穏化」の信頼性はどうか、という質問に対し、繰り返し起きる地震についてはある程度の精度がある、との返答がなされた。
・断層モデルは1枚断層でよいのか、という質問に対し、メカニズムなどを変えた複数枚の断層モデルでも計算したが結果はそれほど変わらなかったことを確認している、との返答がなされた。

□津波の特徴とスリランカの調査

今村文彦(東北大学)

 震源からの位置(方角や距離など)によって異なる津波の特徴についての解説とスリランカにおける現地調査の内容が報告された。また、津波警報システムの構築にあたり、地震情報、津波データベース、リアルタイム津波シミュレーション、リアルタイム観測データを利用した津波の予測精度の向上が必要であること、ビデオ映像などを利用した津波のメカニズムの解明、情報作成→伝達→避難→解除という警報システムの住民への啓蒙・教育活動の必要性、などの課題をまとめた。

□スマトラ島地震津波の最大被災地・Banda Aceh市での調査結果

都司嘉宣(東京大学)

 インドネシアのBanda Aceh市での津波被害調査について詳細な報告がなされた。水位の痕跡などから津波の最大高さは約35m程度であったこと、調査結果をまとめることによって津波の浸水標高の面的分布を求めることができたこと、などが報告された。また、これまでの津波調査とは異なる点として、インドネシア軍と敵対関係にある独立運動組織(GAM)の活動により、調査範囲に制約があったことなどが報告された。

□スマトラバンダ・アチェ市地域での地盤工学的知見

東畑郁生(東京大学)

 地盤工学およびその関連分野の立場から、斜面崩壊、地盤の液状化、広域の地盤沈降現象などについて調査を行った。その結果、斜面崩壊は皆無であったこと、陸地の消滅(海岸線の後退)は津波による洗掘、浸食によるものであると推測されること、液状化地点の地盤データから現地の加速度を推定できそうであること、津波からの避難場所が欠如している地点が多いこと、などが報告された。

◆質 疑
以上3題に対して質疑が行われた。
・津波が到達したときの潮位はどうだったか、という質問に対し、タイ、インドネシアの検潮データから通常時+50cm程度であった、との返答がなされた。
・津波による外力の推定精度はどの程度か、という質問に対し、津波の水位は痕跡などから分かるが最高高さからだけでは建物への外力推定は難しいので数値計算が必要である、との返答がなされた。
・バンダアチェへは地震発生後どのくらいで津波が到達したか、という質問に対し、海岸付近で約15分後、内陸(市街地)で約20分後と推測される、との返答がなされた。

□ビデオ画像による津波氾濫流速と現地調査による推定値との比較

榊山勉(電力中央研究所)

 津波の様子を撮影したビデオ画像を利用して、漂流物の時間経過を解析することにより算出した流速と、従来の方法である水位の痕跡高さから水位差を測定しこれから推定した津波の氾濫流速を比較した結果、両者はほぼ一致していることがわかった。今後は、撮影時間の長いオリジナルの映像を入手し、さらに解析を進めてバンダアチェ市内の津波の実態を解明したいとの報告がなされた。

□タイのKhao LakとPhuket島における2004年スマトラ島沖津波とその被害

松冨英夫(秋田大学)

 Khao LakとPhuket島は津波波源から500km程度離れていることから、建物などの被害は津波のみによるものと考えられること、また、居住区や市街地の被災状況は、日本の東海・東南海・南海地震の津波被害想定にも基礎的な資料として役立つと考えられることから、この地域の津波被害調査を行った。調査の結果、津波高の平均像は、Khao Lakで6〜10m、Phuket島西岸で3〜6m、Phuket島南岸から東岸にかけて3〜10m程度であることが報告された。また、植生による津波の減勢効果が確認できたことも報告された。

□リモートセンシング画像とGPSを活用したタイ南部の津波被害調査

山崎文雄(千葉大学)

 今回の地震のように被災地域が広い場合はリモートセンシングによる広域の被害把握が必要となる。人工衛星画像から被災地域を判読するための現地確認データを収集することを目的として、GPSと連動したデジタルカメラとデジタルビデオを利用した現地調査を実施した。また、3つのビデオ映像を用いたパノラマVIEWSシステムを開発した。さらに、津波浸水域の人工衛星データによる推定のための確認用データとして、分光放射計による植生などの分光反射率の観測も行ったことが報告された。

□スマトラ沖地震・津波によるタイ南部農業被害状況の現地調査

中矢哲郎(農業工学研究所)

 タイ南部の沿岸、農村の津波の被災状況、農地の塩害状況を把握し、被害実態を踏まえた農村、農地の復旧のあり方について検討を行うことを目的として、混合果樹園、ゴム園、ココヤシ園の津波による塩害の調査を実施した。採取した不攪乱試料の土壌電気伝導度の結果から、津波に襲われたほとんどの農地で塩害が進行していること、塩分濃度は表層1〜2cmで高いこと、低濃度ではあるが20〜30cm深程度まで海水の塩分の影響が達していることなどがわかり、今後の回復の程度を把握するためにも長期にわたる継続的な調査の必要性が報告された。

◆質 疑
以上4題に対して質疑が行われた。
・建物は津波が町中を定常的に流れているときに壊れたのか、津波で一瞬にして壊れたのかがビデオの映像などから判断できるか、という質問に対し、ケースバイケースでありはっきりしたことは分からない、との返答がなされた。
・壁が抜けたような建物被害が多く見られるが原因は何か、という質問に対し、この地域に多いレンガ造の建物は面外方向に弱く津波の流体力によって破壊された、との返答がなされた。また、学校、病院などレンガの壁が二重でも壊れた例があったこと、宗教施設ではレンガが三重であり壊れなかったこと、との返答もなされた。

□モルディブにおけるインド洋津波の特性

藤間功司(防衛大学校)

 環礁の連なりからなる独特の地形で構成されたモルディブは、波源とアフリカの中間に位置し、比較的単調な海底地形を通過した津波水位は局所地形の影響を受けにくいと考えられるため、津波の全体像を把握するためにモルディブで現地調査を行った。被害調査結果から、バームにより津波が食い止められたため東側(波源側)で被害が少なく、安全とされるリーフ側での被害例が報告された。ただし、この結果は環礁の位置によって異なるため、詳細な地形データを使用した数値解析を行い、津波の特性を把握する必要があるとの報告がなされた。

□2004年スマトラ島沖地震・津波による構造物被害の概要

長田正樹(応用地質)

 インドネシア、タイ、スリランカ、インド、マレーシアの5ヵ国において、住宅、道路、鉄道、港湾施設などの構造物に絞って被害状況、特徴を調査した。その結果、建物は上部構造の倒壊・流出、レンガ造壁の倒壊、漂流物との衝突による倒壊が多く見られたこと、海水が引いた後の道路は漂着物により車両の通行が困難であったこと、通信設備、プラント、石油貯蔵施設などにも被害があり、生活や産業復興に大きなダメージを与えたことが報告された。

□2004スマトラ沖地震津波の数値解析

松山昌史(電力中央研究所)

 津波の挙動、地震のメカニズムの把握のため津波の数値解析を行い、実測の被害調査との比較を行った。その結果、タイ南部沿岸の津波高分布は実測と調和的な結果が得られたが、スマトラ島北部では実測結果を大きく下回る結果となった。これは、スマトラ島北部の西方沖では断層の不均一性が大きいことが予想され、これを採り入れた解析が必要である、との報告がなされた。

□スマトラ沖地震津及びインド洋津波被害

田村政美(外務省)

 現時点における被害の状況、地震発生後からの日本政府の対応について詳細な説明がなされた。日本は緊急支援として5億ドルの無償支援、国際緊急援助隊の医療チームの派遣や自衛隊(1600人、過去最大)の派遣による人的支援を実施した。また、官民の支援物資リレー、NGOによる支援活動など、官民一体となった支援を継続的に行っている、との報告がなされた。

□インド洋大津波の被害分析に基づく今後の津波防災への一提言

高梨和光(清水建設)

 インターネットによる情報収集、分析、調査によりインド洋大津波の全貌がどの程度まで明らかにできるかについて報告がなされた。また、その結果から、津波とその被害の調査方法、防災教育のための教材内容、海岸施設設計のための耐津波性能マトリクス、総合的な津波防災の観点から要求される機能を満足する施設についての提言がなされた。

□インド洋大津波によるスリランカの建築物の被害について

奥田泰雄(建築研究所)

 JICA緊急援助隊専門家チームに参加してスリランカ北部と東部の建築物の被害調査を行った。スリランカでは大きな地震が観測されず、サイクロンも東部海岸に数十年に1度程度しか上陸しないことから、建築物の設計では地震荷重は考慮されていないこと、調査地域は長年の内戦によりインフラの整備が西部州・南部州に比べて非常に遅れていること、津波の衝撃的な波力を受けたものは基礎を残して上部構造物は破壊されていたこと、植生による被害の低減効果が確認できたこと、などの報告がなされた。

◆質 疑
以上6題および全体を通じての質疑が行われた。
・津波の河川遡上に対しては土木の対策が必要であるとの指摘がなされた。
・津波の再現期間に関する研究はあるのか、という質問に対し、インドでは国、大学によってボーリングによる調査から推定する研究がスタートしている、との返答がなされた。また、地殻変動からの推定も検討されている、との返答がなされた。
・Mw9.0に対してMj8.3は小さいのではないか、少なくともMj8.6以上になるのではないか、との指摘があった。
・津波の最高高さの調査方法について疑問が投げかけられたが、それに対し、津波が来襲する前後の変化、家の壁に付いた水位の痕跡、打ち上げられた船についた痕跡などから判断しているとの返答がなされた。
・相模湾周辺で発生する地震で小田原ではどの程度の津波高さになるか、との質問に対し、200年周期の関東地震では、過去の記録の調査などから、鎌倉で8m、熱海では8〜10m程度であるが、小田原〜平塚にかけては5m以下程度になると予測されるとの返答がなされた。