このページでは,現地(フランス)で気づいたこと,体験したハプニングについて紹介します.

フランス語のrの発音

 せっかくフランスに行くのだからと,今回は少しはフランス語が話したいなと思い,現地へ行く一週間前にCD付きのフランス語会話の本を2冊買った.結果的には大して勉強をしなかったわけであるが,その本の中に「フランス語の発音でとりわけ特徴的な音はrです.rは,うがいをするように発音します.日本語の[ハ]を発音し,そのままの形で[カ](痰をだすつもりで強く)を発音すると口蓋(のどびこ)がふるえますので,これをラ行の音で発音します.」とあり,CDを聞きながらこれを何回かやってみたのだがうまくいかなかった.日本ではちょうど,製薬会社の芳香剤のCMで,日本人主婦2人がフランス語で会話をしているというのをやっていたが,その中で「parfum」という単語を「パクァーフュム」と発音しており本当かなと思っていた.しかし,今回の会議のオーラルセッションで,フランス人の女性研究者が「spectra」を発音する時に,「スペクトゥクァー」と発音しているのを聞き,内容そっちのけで妙に感激してしまった.あの芳香剤のCMの発音は大げさではあるけれど嘘ではなかったのである.

これがイカフライ?

 夕食に市内の安レストランに入った.渡されたメニューを見て何を頼もうかあれこれ考えていたが,前菜と主菜とデザートがセットになっているものがあり,それぞれが3種類くらいの中から選べるのでこれにしようと思った.英語も併記してあったので,前菜はイカフライ,主菜をバターで炒めたマスを頼み,ビール(une biere)を飲んで待っていた.前菜と主菜は順番に来ると思っていたが,店のおばちゃんが一緒に運んで来た.テーブルに置かれたものを見ると,どちらも直径25cmくらいの皿に,片方はチキンが丸ごと一匹でそれにフレンチフライが山盛り,もう片方は青菜の上にツナとゆで卵をスライスしたものが乗っていた.「?」と思って2つの皿を見て考えていたら,料理を運んできたおばちゃんが「いい?」みたいなことを言った.考え込みながらも「う,うん」とうなずき,それを見ておばちゃんは納得して去っていった.でもこちらはまだ考え込んでいた.頭の中では「なんでだろう?なんでだろう?イカフライがツナ?マスがチキン?メニューを読み違えた?」と思っていた.泣きそうになりながらも,「仕方ない.食べるか」と覚悟を決め,ナイフとフォークを持ってチキンに飛びかかろうとしたまさにその時,オーダーを受けたおじさんが走ってきた.そして2つの皿を取り上げ,向こうの若い2人の女性が座るテーブルに持っていった.周りの人もそれを見ていて笑っていた.照れ隠しに「俺には多すぎるよ」と言ったら,近くのテーブルのおじさんも笑ってそれに答えた.「俺だって食えないよ」みたいなことを言っていたのだと思う.ほどなく,店のおじさんがイカフライを持ってきてめでたし,めでたし.

バックギアが入らない!

 ニースでは雨が降っていたので,レンタカーを借りて西に行ってみることにした.とにかく雨が晴れて青空が見えるところまで行こうと思った.レンタカーを借りたが当然左ハンドル.そしてマニュアル車.地図もなかったので持参のハンディGPSを使って自分でナビをすることにして出発した.雨が降っているのでワイパーも回さなければならず,ワイパー,ウインカー,GPS,そしてギアの操作に格闘しながら慣れない市内の道を走り始めた.とにかく,郊外に出ようと思ったが,ガソリンが1/4くらいしか入っていなかったので(「返すときは1/4くらいの量で返せばいいから」とアバウトな事をレンタカー屋の兄ちゃんには言われた),遠出の前に給油しておこうと思った.市街を出てようやく余裕も出てきて目についたセルフのガソリンスタンドに入り,給油位置を修正しようとバックしようと思ったが,バックギアが入らない.ノブには「R」は「1」のすぐ左にあり,ギアを左に目一杯引き寄せてから倒してもローに入るばかりでその都度車はジリジリと前進して行った.給油どころではないので,スタンド内のスペースがある場所まで行って,ギアを押したり引いたりしたがやはりローにしか入らない.R用のボタンがあるかと思って探したがやはり見あたらなかった.仕方がないのでまたレンタカー屋まで戻ることにした.せっかく,混み入った市内から脱出したのに,また,そこに戻らなければならない.それに,レンタカー屋へ行く途中でバックしなければならなくなったら大変である.実際,戻る途中に狭い路地で前のトラックが対向車とすれ違う際にバックしたこともあり,そういう場合には雨の中を外に出て車を押さなければならないなと思っていた.でもなんとかバックを使わずにレンタカー屋まで戻ることができた.ピットに停めた車にさっきの兄ちゃんが近づいて来て「どうした?」と訊いてきた.「バックギアはどうやって入れるんだ?」と訊くと,「ほれ」とノブと蛇腹の間にある鼓状のつまみを上にひょいとあげて見せた.「おー」と思わず感激してしまった.

空港行きのバスが来ない!

 ニースの市内までレンタカーを返しに戻ってきた.市内に近づくにつれて雨が強くなり,雷鳴が光るようになってきた.道路も渋滞している.車を返して買い物をし,ニース空港行きのバスを待っていると20分おきに運行しているはずのそのバスがなかなか来ない.そこにいたアメリカ人老夫婦に訊いたら,40分も待っているが来ないのだそうである.最初は余裕でいたのだが,1時間も待っていたらだんだん焦ってきた.そこで,近くのホテルに行って,タクシーを呼んでもらうことにし,バス停に彼らがまだいたら拾うということにした.ホテルの人にタクシー会社に電話してもらったが,タクシー会社になかなかつながらず,ようやくつながったと思ったらタクシーはすべて出払ってしまっているとのこと.10分後にまたかけ直すとホテルの人に言われたが,10分も待てる状況ではない.バスが来なかったら10分後にまた戻ると言って,バス停に戻ると例の老夫婦がまだいた.バスはまだ来ないのだそうである.ここで10分バスを待つことにしたら,ほどなく客をぎゅうぎゅうに詰めにしたバスがやってきた.無人島で近くを通りかかった客船を発見したかのように,老夫婦と3人で傘を振り回してバスを停めた.老夫婦には「おまえは戻ってきて正解だった」と言われた.扉が閉められない程にいっぱいのバスに乗り込んだとき,今回の旅のハプニングもこれで終わりだと思ってほっとした反面寂しくもあった.

成田行きの飛行機が行ってしまった!

 でもハプニングはそれで終わりではなかった.空港に着くと,パリ行きの飛行機が少し遅れているとのこと.来るときもパリからニースの飛行機が遅れていたし,こんなことはたびたびあることだろうから特に気にしていなかった.搭乗口のベンチで隣に座っていたイスラエルの研究者と話をしていると,一人の日本人が「成田までですか?飛行機に乗れないそうですよ」と声をかけてきた.詳しく聞いてみると,天候のためにパリ行きの飛行機が1時間半ほど遅れ,その結果,パリから成田行きの飛行機の出発時間には間に合わないのだそうだ.日本の終電みたいに待っていてくれればいいのにと思ったが,それはだめみたいだった.パリに着くと,エールフランスのカウンターに行った.すでに深夜0時である.翌日の昼13時の飛行機に乗ることになり,近くのホテルをあてがわれた.このホテルは5つ星ホテルで,ニースで泊まった4つ星ホテルよりもはるかに豪華であった.結果的に成田に着くのが土曜の夜の予定が日曜の朝になっただけであり,旅の最後に思いがけずリッチな気分を味わうことができた.でも,調子に乗って部屋のミニバーのハイネケンのビールと塩豆を食べたら翌日のチェックイン時に10ユーロ取られた.ハイネケンが5ユーロはいいとしても,塩豆も5ユーロとはさすがに5つ星ホテルである.


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