ホーム日本地震工学会会長あいさつ

会長あいさつ

日本地震工学会 目黒公郎会長(任期:2015年5月22日~2017年5月31日)の挨拶

 日本地震工学会(JAEE)の平成27年度の活動の開始にあたって一言ご挨拶申 し上げます。
 つい先日、2015年4月25日にネパールでM7.8の地震が起こり、カトマンズ盆地を中心に甚大な被害が発生しました。内外で大きな地震災害が発生するたびに、地震工学や地震防災の重要性が叫ばれます。しかし過去の経験からすると、社会一般の注意力はあまり長続きしないようです。「注意が長続きしない」問題は、一般的には工学の研究対象ではないのかもしれませんが、地震被害の最小化を目標とする日本地震工学会にとっては非常に大きな課題です。
 東日本大震災を踏まえた政府中央防災会議の試算では、南海トラフの巨大地震による被害は、最大で、死者・行方不明者が32万人を超え、全壊・流出・全焼建物被害は240万棟近く、被害総額は220.3兆円です。同様に首都直下地震では、死者・行方不明者が2.3万余人を超え、全壊・全焼建物被害は60万棟以上、被害総額は95兆円です。両者を合わせた被害総額は300兆円を超え、これは我が国のGDPの6割を超える規模です。

 これらの被害想定の精度に関しては様々な意見があるでしょうが、現在の我が国の財政状況や少子高齢人口減少社会を考えれば、これらの巨大地震災害への取り組みは「貧乏になっていく中での総力戦」であることは間違いないと思います。総合的な防災力の向上は、「自助・共助・公助」の3者の担い手ごとに、「被害抑止」「被害軽減」「災害の予見と早期警報」の3つの事前対策と、「被害評価」「緊急災害対応」「復旧・復興」の3つの事後対策を、対象地域の災害特性と防災対策の実状に合わせて適切に組み合わせて実施していくことで実現します。しかし我が国の財政と人的資源の制約を考えれば、今後は「公助」の割合は益々減っていくことが予想され、これを補う「自助」と「共助」の確保と、その活動を如何に継続していくかが大きなポイントになります。このような課題に対する解決策は、従来型の地震工学の研究のみからは出てきません。

 これまでの研究の深化に加え、理工学と人文社会学を融合した研究成果に基づくハードとソフトの組み合わせ、さらに産官学に金融とマスコミを合わせた総合的な災害マネジメント対策が求められています。  これらを実現する上でのキーワードは防災対策の「コストからバリュウへ」の意識改革と「フェーズフリー」です。従来のコストと考える防災対策は「一回やれば終わり、継続性がない、効果は災害が起こらないとわからない」ものになります。しかしバリュウ(価値)を高める防災対策は「災害の有無にかかわらず、平時から組織や地域に価値やブランド力をもたらし、これが継続性される」ものになります。防災の視点からの組織や地域の格付けとその結果に基づく金融モデルやリスクコントロールに貢献する災害保険などがその典型です。

「フェーズフリー」は平時と災害時、防災の3つの事前対策と3つの事後対策など、様々なフェーズで適用できたり利用可能な商品、システム、会社や組織、人やその生き方、などを表現する新しい言葉です。社会の様々な構成要素を「フェーズフリー」にしていくことで付加価値をもたらすとともに、結果的に社会全体を「フェーズフリー」に、すなわち災害レジリエンスの高い社会に変革しようとするものです。

 我が国を代表する地震工学の専門家集団であるJAEEに対する社会の期待や課題は、東日本大震災の復旧・復興支援、首都直下地震の危険性が指摘される中での2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた地震対策の推進、第17回世界地震工学会議(17WCEE)の誘致、南海トラフ沿いの巨大地震対策の推進、諸外国での地震災害への支援、学会としての強靭な財政基盤の確立など、様々です。これらの期待や課題解決に答えられるよう、また会員の皆様のお役に立つ学会となるよう努力していきますので、益々のご理解とご支援をよろしくお願いいたします。

過去の会長挨拶はこちら

このページの上部へ